ホックニー展感想

一か月くらい前にMOTでやってたホックニー展へ行った。特に印象に残った作品中心に軽く感想を書きました。何か書こうとは思いつつなんやかんやで一か月もたってしまった。

存命の画家ということで著作権がしっかり生きている。問題なく画像引用する方法調べるのが面倒だったためリンク貼っときます。許してください……

 

◆”Hotel Acatlan: Two Weeks Later” (1985)

‘Hotel Acatlan: Two Weeks Later‘, David Hockney, 1985 | Tate

ダイナミックな絵だ。題材として選ばれているのはホテルの中庭にあると思しき回廊だが、立ち並ぶ同じ形の柱の部分部分がいろいろな角度から描かれていることから、きっとぐるぐる歩いて眺めたのだろう、と直感的にわかる。視点は回廊中のある一点に置かれてはいるが、見ているだけで静的な画面の中に織り込まれた画家の体験を追体験するようだ。もっともやや極端な遠近感の誇張やリトグラフの線的な表現が、アニメでスピードが出るときに用いられるようなデフォルメと似ていることも少しは効いているだろうか。
こういう画面づくりを見るとキュビズムとかセザンヌを思い出すわけだが、形式が踏襲されているだけで、やろうとしていることは違う。

 

◆"Christopher Isherwood Talking to Bob Holman, Santa Monica, March 14th 1983" (1983)
作品 ┃ 東京都現代美術館コレクション検索 (mot-collection-search.jp)

こちらは写真のコラージュの作品。ある部屋と、そこで流れていたある時間が立ち現れている(まさにタイトル通りだ)。ホックニー自身は(おそらく)友人たちと同じく机を囲んで椅子に座っていて、歓談の途中であちこちに目をやっている。すると友達が喋りながら、笑ったり真剣な顔つきになったり、いろんな表情をしているのが見える。顎に手をやったり、メモを取ったり、しぐさも変わる。瞬間瞬間に見えたものから印象を受け取り、それが頭の中で総合的に組み合わさった結果として、我々は人と接したことになるのだし、部屋で流れる時間の中に身を置いていたことになる。

 

◆"Walking in the Zen Garden at the Ryoanji Temple, Kyoto, Feb. 1983" (1983)

Walking in the Zen Garden at the Ryoanji Temple, Kyoto, Feb. 1983 (thedavidhockneyfoundation.org)

これもそう。個々の細部に目をやりながら歩くうちに、歩きながらでは一度も四角い庭として見えないにも関わらず、我々の頭の中では四角く庭の全体が捉えられている。

ホックニーの表現したいことの一つは、視覚を通じて/視界という有限のフレームをもって世界を捉えるとはどういうことか、ということなのだろう。彼の作品は内的な世界把握の感覚や視覚経験がよく表れているものが多い印象がある。

 

◆"In the Studio, December 2017" (2017)

‘In the Studio, December 2017‘, David Hockney, 2017 | Tate
一方大きく年代は下って、このスタジオを描いた作品は、個人的にはもう少し挑発的なものに思えた。大きな作品で、遠くから一見した感じいたって普通の部屋の写真か何かかと思うのに、近づいてちょっとよく見てようやく分かるくらいの塩梅で細部が歪められていて、視覚認識の脆弱性を暴いているように感じられたからだ(歪みを認知した後に再度離れて見てもやはり歪んだ部屋としては捉えられず、気味が悪かった)。中心で立っているホックニーもこちらを見ながら、どうしたんですか、今あなたがたが見ているのは「ぱっと見そのままの普通のスタジオ」じゃないですか、と主張しているかのようじゃないか?しかし別に離れて一見した段階でも十分歪んで見えると言われればそれまでなので穿ちすぎかもしれない。

ほかに人物の肖像描いた絵とかも良かったのですが文章に起こす気力とモチベがなかった。全体的にやりたいことと画面の説得力のバランス感覚に非常に優れている画家だと思いました。シンプルに絵が上手い。

 


あとこれは展示からは少しそれる話だが、最近は「見たものを見たままに描く」ことは本当に難しいのだろうなとよく思っている。もちろん単に写実的な意味としてではなく。自分が何を見ているか・何を見ていないか把握することの難しさと、表現に落とし込む難しさとに分けられると思う。これはいつの時代にあっても絵描きにとって大きな課題であり続けてきたし、これからもたぶんそうあるだろう。